月光御伽
『匠、やめてよっお願いだからっ!!!』
私の叫び声に匠の拳が止まった。
腕がだらんと落ちたあとは
私も匠もしばらく動かなかった。
その間に葉月達は蜘蛛の子が散るように
無様に逃げていった。
よかった…。
風に頭を冷やされ漆黒の髪が流れる。
ほっとしている私に
匠がいきなり問い掛けた。
「なんでだ?」
『…。』
「なんで、初めて頼った、頼まれた言葉が[やめて]なんだよ!?」
『あんたはいつも私の傍に居てくれた。それだけで充分なの…』
「…痛い目見りゃあいつらお前に手ぇ出さなくなったかもしんねぇだろーが。」
『葉月達が痛い目見ようが、死のうがどうだっていいのよ。でもそこで匠がそれを仕掛けたら匠が悪くなるじゃない。』
それじゃ、また─…
「お前のせいじゃない。」
『え?』
「お前せいじゃねぇんだよ。親父さんたちの事故だって、あん時の俺の喧嘩だって。…お前が責めてんのはお前自身じゃなくて、その目なんじゃねぇか?」
『うるさい!匠なんかには解らない!!』