月光御伽
弐巻
一体どれくらいあの場で
動けなかったんだろう。
景色はもう紅ではなく
漆黒に染め上げられていた。
少し冷たい風が私を覚醒させていく。
一人で帰るいつもと変わらない道程が
今日はやけに寂しく思えた。
ただ一度、匠が私に
背を向けただけなのに
私は自分で思っているより
強くあれてないのかもしれない。
匠は私を沈ませてしまうほどに
大きな、大切な存在だったんだ。
失って気付くもの。
それがこんなに絶大的なものだったとは。
自転車のベルの音に
思考の渦から呼び戻された私は
自宅とは違う場所の前に
辿り着いていた。
この神社──…