月光御伽
私の部屋に入ったとたん
匠はテレビを着けて
床に寝転がり
「朝妃、茶ぁ~」
なんて言葉をなげる。
『私はあんたの奥さんでもお母さんでもないわよ。』
私も私でそんなこと言いながらも
手をせっせと動かして
二人分のお茶とお菓子を出して
テレビの真正面の定位置に落ち着いた。
見てる間は二人とも口を訊かない。
沈黙だけどいつものこと。
この静けさがとても好きだった。
「朝妃、俺帰るわ。」
『どうしたの?』
いつもは終わったあと
少し寝て帰っていくのに
急に立ち上がった匠に違和感を感じた。
「雨降ってくる。」
『雨?そっか匠、雨嫌いだったね。』
昔から雨に敏感だった匠。
それに雨が降ると匠はいつも悲しい顔をする。
その理由は聞いてはいけない気がした。
玄関に一緒に行って出ていく匠に傘を渡す。
「いらねーよ。」
『濡れるわよ。』
「水も滴るい『どこが良い男よ。』…うっせ。」
『…ほら。』
匠に押し付けるが受け取る気配もない。
「明日まで降ったら、お前学校来れないだろ。」
どこまでもお人好しな奴だ。
『わかった…。風邪ひかないでよ。』
おう。っと手を振って匠は
玄関から少し冷たい空気の中へ
足早に去っていった。
私…折り畳み傘持ってなかったっけ?
下駄箱を引っ掻き回すと
目当てのものが出てきた。急いでベランダに走っていく。
『もう振ってるじゃない。』
窓を開けたら丁度、匠が
ベランダを通るところだった。
『匠っ!』
「おっ、なんだ~?」
傘を投げる体制をとった私は
続きの言葉を出せなかった。
曲がり角から匠の背後に来た二人の男に
見覚えがあったから。
『…さっきの?』
「あー?聞こえねーよ!」
『─匠!逃げてぇー!!』