cross-----桜色の時間軸。
『チチチチチ・・・』
大きな欠伸をして腰を上げた少
年は着物の肌蹴を直すと、長く
伸びた茶色の髪を結い、井戸へ
向かった。
水を汲み、顔をバシャバシャと
乱暴に洗うと、てぬぐいで優し
く顔を拭く。
光にあたっている少年の顔は、
実に美しかった。
「若君。そこにおられたのです
か」
一人のおじいさんが杖をつきな
がら『若君』と呼んだ少年の元
へ近づいてくる。
「咲助でいいと言っているだろ
う」
「でわ、咲助様。見合いの者が
こられています」
「俺は結婚する女は自分で決め
る、父上母上に従う気は無い」
「ですが「そう伝えておけ。俺
は町へ出てくる」
「はい」
ナゼ
自分の結婚相手を自分で決めて
はいけないのか。
俺にはそれがわからない。
見合い結婚なんてさらさらごめ
んだ。
俺はにぎやかな町のとおりへと
足を運んだ。