新撰組~変えてやる!!
結局、蕎麦屋についたのは屯所を出て、1時間程経った後のことだった。蕎麦好きの斉藤が通っている蕎麦屋らしく、店員は斉藤と親しげに話していた。
「お待ちどうさん。」
葵は聞き覚えのある声に、顔を上げた。その先にはきれいな女性の姿。しかし…
「……丞…?」
横に座る藤堂にも気付かれない程に小さく呟いたはずの言葉が、その者には聞こえたようだった。そして口に人差し指を当てた。
「…黙っといてや。戻ったら、説明したるさかい。」
その者は去り際に、葵にだけ聞こえるほどの声で、そう告げて行った。
「葵?何ぼーっとしてんの?」
「ぇ、あ、いや…ごめん。」
葵は藤堂から渡された割り箸を割った。
葵が止めるのも聞かず稽古指導をさぼったからという理由で代金を払ってくれた原田に礼をしながら葵達は屯所へと歩いていた。元々は、土方の凡ミスのせいだったのだが。
「斉藤が勧めるだけあって、美味かったなっ!!」
永倉の言葉に、原田と藤堂が大きく頷いた。葵も頷く。
「行き着くまでは大変だったけど仲間がいればへっちゃらだもんな!!ねっ、葵♪」
藤堂は子供っぽく笑った。それに葵が答える隙もなく、原田が相槌を打った。
「だな!!そうだ。葵の昇格の祝い、しよーぜ!!」
「おっ!いいな、それ!!」
原田、永倉、藤堂の3人は、まだできるかも分からない祝いのことを話し出した。
「…仲間…」
「…いいものだろ?新撰組には、いい意味で馬鹿が揃っている。」
斉藤は小さく微笑んだ。
「うん。馬鹿だね。」
葵も小さく微笑んだ。“馬鹿”の言葉に隠された“優しさ”の意味。仲間とは、こういうことを示すのだ、と初めて知った葵だった。