新撰組~変えてやる!!
「…できるわけがない。そんなことができるなら、こんな醜い争いは起きていねぇよ。それにな、間者ってのは敵にバレたら斬られる運命。斬られずに捕らえられたとしても、自ら死のうとする。そういうもんだ。…俺達が相容れるようなことなんて、何一つないんだ。」
「けど…」
土方は葵を睨み付けた。ギラギラと光る鋭い目に、葵の体が無意識のうちに震えていた。しかし、葵も負けじと口を開く。
「…私には、分かりません。どうして、すぐに斬る斬らないの話になるんですか?私の生きてきた時代は確かに違う。でも、それが殺してもいいっていう理由にはー」
「それが甘いってんだ!!この時代にはこの時代のやり方がある。お前もこの時代にいるからには、それに従うべきなんじゃないのか!?」
葵の言葉を遮って言われた土方の厳しい一言に、葵はさらに体を震わせた。その震えは恐れ故か、怒り故にか、葵自身にも分からなかった。
「…分、かり…ました…失礼します。」
葵は、流れ出しそうな涙を隠しながらその場を去った。
「…っ、…クソッ!」
葵のいなくなった部屋で、土方は強く握った拳を畳にぶつけた。
「…鬼になんのも、しんどいな………あいつの言うことは理想形だ。…けど、そんなことができるなら…俺だって…」
土方は開け放されたままになっている襖から見える月を何をするでもなく、ただ眺めていた。
「…っ…ふぅ……」
自室に戻るなり葵は布団に潜り込んで、声を押し殺して泣いていた。
“…確かに、副長の言う通りなんだ……でも、私にはできそうにない。だって、楠木見てたら…”
葵は次々に流れ落ちていく涙を止めようと目元を手で押さえ、深く深呼吸した。
“…こんなんじゃダメだ。……風に当たろう。少しは、気が晴れるかもしれないもんね…。”
葵はのそのそと布団から出、襖を開けてそこから見える月を眺めた。いつもならただ美しい月光も、神秘的な光の中に妖艶な光もあり、なんとも不気味に見えた。
「……月…」
「…月は人を惑わすぞ?」
葵は声がした方を見た。人がいることまではわかるが、ちょうど影になっていて、顔までは見えなかった。