新撰組~変えてやる!!
それから葵と土方は互いに、さり気なくではあるが、よけていた。険悪な雰囲気になるわけでもないのだが、話が続かないのだ。
そして、時は流れ、9月26日
「…本当に、斬ってもいいんですね?私は、確認しましたよ。」
「あぁ。問題ない。足は付いている。」
まだ辺りも暗く、少し肌寒く感じる早朝のこと。幹部が集められ、それぞれ刀を手に座っていた。ただひとり、葵を除いて。
「じゃあ、松永を源さんと総司。松井を左之と平助。御倉を斉藤と新八。荒木田は林と浅野に頼んである。楠木は…山崎と小宮だ。頼んだ。」
「…へ?」
皆が頷く中、葵だけは間抜けな声を出した。
「…以上。質問は受け付けないぞ。」
葵がひとりで呆けている間に、皆が次々に土方の部屋を出て行った。葵も山崎に腕を引かれて、部屋を出た。
「ほ~んま、副長は不器用過ぎるわ。素直に“やれるだけやってみぃ”て言えばええのに…。葵、覚悟しぃや?説得してみてあかんかったら、俺が楠木を殺す。せっかく機会、与えられたんや。ちゃんと物にせなあかんで?」
山崎がくつくつと笑いながら言った。その笑顔とは裏腹に、その手には普通のものよりも少し長めの刀が握られていた。
「…ありがと、丞…」
葵は山崎に聞こえないように、小さく呟いた。
「…ほな、行こか。楠木は今日、門番させられてるはずや。」
山崎は門へと歩き出した。葵も、それを追うように歩く。朝霧が深い。少しでも離れれば見失ってしまいそうな程にだ。冷たい風が葵の頬を撫でていく。手が冷たいのは寒いからか、緊張しているためか。
「あれ?おらん…さぼっとんのか?」
「…違うと思う。たぶん、近くの壬生菜畑にいる。」
葵は冷たい空気を吸い込んだ。
「楠木さん!いませんか?」
「はいっ!!ここにいます!」
葵は楠木の返事に複雑な気持ちになった。今からの説得で楠木の未来が決まる。桂 小五郎の命令に背き、新撰組の隊士としての人生を歩むのか。はたまた、間者としての使命を全うしようとし、ここで殺されるのか。いずれにせよ楠木にとって、つらい選択になるのは、間違いないだろう。葵は重たい口を開いた。