新撰組~変えてやる!!
「よかった。さぼっていたわけでもなさそうですね。」
葵は出来る限り冷静を装い、楠木に笑い掛けた。
「そんなっ、さぼるなど…」
「わかってますよ。……少し、話をしたいのですが、よろしいですか?」
楠木はコテッと首を傾げ、頷いた。
「…単刀直入に言いましょう。こちら側に、…新撰組に寝返るつもりはありませんか?あなたが桂 小五郎の命で間者をしていることは、すでに幹部の方々には知れています。」
「…!?な、何故!!総隊長、悪い冗談はよしてください。私が、なぜ間者などをする必要があります?」
楠木の顔が焦りを見せ始めた。冷や汗までかいている。
「…あなたには俺が、冗談を言っているように見えますか?もう一度問います。寝返る気は、ありますか?」
「…っ…くっ…!!私は……私には、桂先生を裏切るような真似はできません!…ただ…私は……この組の方々が好きでした。総隊長、私には…桂先生を裏切るような度胸を、持ち合わせていません。」
葵は静かに目を伏せた。楠木の鼻を啜る音が聞こえる。目を伏せた葵には見えないが、楠木は泣いているのだろう。
「……後悔は、しませんね?今なら…」
「…後悔など、致しません。私は、長人です。初めから、相容れることなど…難しかったのかもしれませんね。」
涙声で言った楠木の言葉に、葵は伏せていた目を上げた。互いに“諦めた”といった表情の楠木と葵は、互いに精一杯の笑顔を相手に見せた。
「……芹沢局長と新見副長また会ったらお伝えください。“小宮は鬼になります。そこから見ていてください。”と。」
「はい。……では、私も舞さんに言伝てを…。“楠木は、遠い遠い旅に出ます。舞さんの幸せを遠くから祈っています。”と。」
葵は大きく頷いた。楠木は壬生菜畑を悲しそうに見つめた。
「…葵、ええんやな?」
「……全ては俺の力不足。確認するまでもないでしょ?そういう約束だったんだからね。」
葵は視界いっぱいに楠木を映した。山崎が刀を抜き、楠木に近付いていく。