新撰組~変えてやる!!
己の未熟さ故に救うことのできなかった命。一瞬も見逃すことのないように、葵はしっかりと目を開いた。
「…では、お元気で…」
そう言って、楠木は切なそうに笑った。山崎の長い刀によって、一瞬で崩れ落ちた細身の体から、目を逸らせなかった。
「……楠木…小十郎…、壬生菜畑にて殺害。…やっぱり、変えられなかった。」
葵の頬に、一筋の線が現れた。切なそうに笑った楠木の顔が、頭にこびりついて離れない。目の前には、どんどんと広がる血溜まり。その上に崩れ落ちている楠木の死体が“史実通りにいったならば”と、山南や藤堂達の最期を葵の脳が勝手に妄想していく。
「…っ、楠木…さんっ…」
葵はその場に崩れ落ちた。雨も降っていないのに、ポツポツと地面に水が落ち、消えていく。そうして葵は自分が泣いているということに気が付いた。
「…葵、ホンマに悪かった……見せるべきやなかったな…。」
山崎は血の付いた刀を納め、葵の横に膝を付いた。そして、声を押し殺して泣く葵の体を抱きしめた。
「…悪かった…せやから、泣くな…頼むから、泣かんでくれ…」
「…丞…放して……楠木さんっ…」
葵の言葉とは逆に、山崎の腕の力が強くなった。葵は何とか抜け出そうと暴れてみたが、山崎はピクリとも動かなかった。
「放してよっ!!」
「……悪かった…」
葵は抵抗することをやめた。視界は涙のために歪み、頭は混乱のために正常に働いてくれない。山崎の声が山崎自身を責めているように聞こえ、葵は無意識のうちに山崎の背に手を回していた。そして、ギュッと着物を握った。
「…丞っ、怖い…私の、大切な人が死んでいく。私は、それが怖い…お願い、死なないで!…もう……あんな思い、たくさんだ!!」
「…葵…」
山崎は涙の止まらない葵の背中を、子供をあやすように優しく撫でた。