新撰組~変えてやる!!
「楠木さんからの言伝てです。“楠木は、遠い遠い旅に出ます。舞さんの幸せを遠くから祈っています。”…って…。」
「…え…?楠木のお兄はん、旅に出はるん?いつなん?」
葵は何と言おうか悩んだが、やがて口を開いた。
「もう、旅に出てしまいました。本当に、遠くに…もう、会えないほど遠く…。それで、それを伝えに…」
「うそ…そんな訳、あらへん!!楠木のお兄はん、この間“また遊ぼう”て言うてはったもん!嘘つき…蒼兄はんの嘘つき!!」
言い切って、舞は逃げるようにその場を去った。
「舞ちゃん!待って!!」
舞の着物を掴もうとした葵の手が、何かを掴むことはなかった。足元に舞の持っていた鞠が転がっている。葵はそれを拾い上げ、舞が走り去っていった方へと足を向けた。
「……見つけた…」
舞は境内の一角で眠っていた。なぜか沖田の膝に頭を預けて。葵は静かに舞へと近付いた。それに気付いた沖田が口に指を当てた。
「…寝ちゃってたんですね…。」
葵は沖田の隣に腰掛け、舞の頭を優しく撫でた。
「……舞さん、泣いていましたよ?“楠木のお兄はんがおらんようになるなんて、あり得へん!!”って…」
「そうですか…舞ちゃん、ごめんね。」
葵は手に握っていた紐を舞の手首に緩く結び付けた。その紐は、先程まで楠木が髪を括っていたものだった。
「…沖田さん…舞ちゃんのこと、頼んでもいいですか?今、俺が話しても聞いてくれない気がするんです。」
「いいですよ?」
葵は沖田に舞の私物である鞠を預け、壬生寺を後にした。頬に涙の跡が残った舞の幼い寝顔が葵の心をこれでもかというほどに痛めつけていた。