新撰組~変えてやる!!
今、葵の目の前に広がっている光景は、辺り一面が白と僅かな黒で埋め尽くされていた。そして、部屋の中央で目と鼻の先といったほどの近さで何枚もの報告書を書いていた。2人は、葵達が来たことにも、斉藤が声を掛けたことも気付かないまま必死に筆を走らせていた。
「副長!総長!」
斉藤が先程よりも大きい声で呼んだことで、2人の筆を走らす腕の動きが止まり、きつい目元をした人と優しい目元をした人が葵達へと視線を向ける。葵は、本当に年が近いのかと疑いたくなるほどの雰囲気の違いに、少し笑った。
“けど…この2人って、案外似た者同士だよね~…一度集中すると周りが見えなくなるところとか…”
葵は口には出さず、そう思い、また少し笑った。
「副長、そろそろ出掛けようと思うのですが…」
「ぉおっ!?…もうそんな時間か!?」
土方は辺り一面に散乱している紙を眺めて、小さく舌打ちした。
「…土方君、行ってきてもいいですよ?もう、1人でなんとかできる範囲ですし、後は私に任せてください。」
「し、しかし…山南さん…」
山南は土方にニコリと笑い、戸惑っているその手から筆を奪い取った。
「流石に疲れたでしょう。毎日働き詰めでは体に悪いですよ。今日はゆっくりしてきてはいかがです?」
山南は土方にもう一度微笑んだ。そして葵は思った。“やっぱり、鬼と仏だ”と…。
「帰ってきて、間違いがないかだけ目を通してくださいね。では、行ってらっしゃい。」
「ぁ、おい…」
山南は土方の返事を聞かないままピシャリと本来土方の部屋であるはずの部屋から彼を追い出したのだった。
「………しゃーねぇ…、ここは山南さんに任せるか。」
土方は“仕方ない”といったように呟いたが、声はそれに反して嬉々としていた。
「…さて、と…斉藤、どこに行くつもりだったんだ?……店くらい決めてあるんだろ?」
「まぁ…何カ所か回るべきかと…」
斉藤は土方の横に並び、葵はその少し後ろを歩いていた。