新撰組~変えてやる!!
「…すごい…彫刻…長さ、重さ…」
葵は鞘だけでなく、刀身にも彫られている彫刻に見入りつつも、手に掛かる重圧感や扱いやすい長さをさらに見極めるため、刀身を全て鞘から出した。
「小宮?」
葵が、突然斉藤の選んだ刀ではないものを見始めたことを不思議に思ったのか土方が怪訝な表情を浮かべながら葵の名を呼んだ。斉藤も葵が手にしている刀に目を留めた。
「葵、その刀…少し見せしくれ。」
「え?ぁ、ああ。」
葵は斉藤に刀を渡し、手に残ったままの鞘をしっかりと握った。そして店の奥から視線を感じ、一度そちらを見やってから斉藤の握る刀に、再び視線を戻した。
「……これは…埋忠 明寿<ウメタダ ミョウジュ>の刀ではないか?この鍔の造り…恐らくはそうだ。」
葵に、斉藤の言葉の意味はよく分からなかったが、斉藤の顔を見ている限り、いい刀だったようだ。
「葵、この刀が気に入ったか?」
葵は斉藤から刀を受け取りながら、頷いた。葵にとって、その刀は重さも長さもぴったりだった。
「…いい刀を見付けたな。副長、この刀にしましょう。俺は使い手の感覚が一番頼りになると思ってますから。」
「そうだな。」
土方は斉藤の言葉に頷いた。そして葵から鞘に納めた刀を受け取り、近くにいた店員に声を掛けた。
「少しお待ちなされ。」
葵が声のした方向に目を向けると、そこには店主であると思われる老人が立っていた。その老人は先程まで店の奥で葵達を見ていた人物だった。その手には1振りの刀が握られていた。
「その刀は、この“差添<サシゾエ>の刀”と揃いの物だ。こちらの刀の分まで、金は取らぬ。だが、その代わり一緒に持っていってくれ。それができぬのならば、儂はその刀は売らぬ。」
見れば、少々小振りなそれは、確かに土方の手にある刀と酷似していた。
「…分かりました。断る理由などありません。頂きます。」
葵はニコリと老人に笑顔を向けた。その老人は葵に刀を渡すと、土方から金を受け取り、頭を下げた。
「…おおきに。」
そう言った老人の姿を目の端に写し、葵達はその店を出た。