新撰組~変えてやる!!
葵の木刀は沖田の肩をかすめただけだった。一方、葵は沖田の蹴りをお腹に受け、そのまま地面へと倒れた。そして起き上がろうとした葵の首元に、沖田の木刀が当てられた。
「…っ……あ~ぁ…久し振りに負けましたね…あー、悔しい!」
葵は、少しだけ起こした上半身を再び横たえた。
「私は楽しかったですよ?さぁて!斉藤さ~ん!!勝負しましょう~!」
そう言いながら、沖田は軽い足取りで斉藤に近付いて行った。葵はしばらく空を見上げていたが、やがて木刀で打ち合う音に耳を傾けながら目を閉じた。
「葵~?終わったで~?」
「…丞…?」
目を開けると顔を覗き込んできたのか、思った通りよりも近くにあった山崎の顔に葵は驚いた。山崎は葵が目を開けるとすぐに手を差し伸べてきた。葵もその手を素直に取り、起き上がった。
「お疲れさん…明日は休みやで~?」
「休み?」
山崎はニコニコと笑い、葵の手から木刀を抜き取った。
「明日は出掛けんねん。俺も休みやて言うといたやろ?」
「そうだった…見せたい所があるんだっけ?楽しみにしてるよ。」
葵は乱れた髪をほどき、下の方で括りなおした。山崎は葵の耳元に顔を近付けた。
「……明日は俺の女物の着物貸したるわな…久し振りに女の感覚、取り戻しや~」
山崎は葵の頭をぽんぽんと撫でて歩き出した。葵も慌ててその後ろを追う。
こうして討ち入りの練習は幕を閉じた。この話が後に語り継がれることはない。新撰組屯所のある1日のお話。