球児に恋をした
***甘くない***
でも、ホームランを打った
から逆転ってわけにも
いかないらしく、その次の
打順にまわってきた大野で
アウトになり
また相手の攻撃が
始まった。
ピッチャーはいつも通り
紫井くんだった。
性格が悪いと噂だが
マウンドにたってボールを
一生懸命投げてる姿と
目の悪い私にとって顔が
よく見えなくて
それに、何より見えたのは
縦じまのユニフォームの
後ろに背負った
背番号1
という数字だった。
なぜか1番の背番号を
つけてるとかっこよく
見えてしまう。
そんなことを思っていた矢先
瞬く間に場内の歓声が
耳に入ってきた。
相手もお返しのホームラン
いや、1人塁に進んでたから
ただのホームランじゃなくて
一気に2点入ったのだった。
その時上島中の野球部
全員がさっきまでの
興奮を忘れ、ただただ
相手のバッターが塁を
回るのを途方にくれるような
顔つきで見ていた。
きっとみんなその時
甘くない。
相手は市の大会でも
ましてや県大会でも
上位になるチーム。
上島中の野球部員にとって
とても大きなホームランは
美山中の野球部員に
とってみれば
たかがソロホームラン
だったのかもしれない。
そんな事を伝えてるかの
ようなホームランだった。
甘くない。決して。
観客も美山中に便乗する
かのように騒ぎだした。
そんな状況でも1人
一生懸命に
声かけをする人がいた。