意識の融解
また忘れそうになっていた。

星空の下に来なければ戦意を思い出せないなんて。

忘れっぽいのは、司令官たる自分か戦士たる自分か。


そんな自嘲をしたとき、クルマのドアの開く音がして間延びした声が続いた。

「もー、着いたなら起こせー」

振り向いても暗闇に溶けてろくに姿は見えないが、こちらに向かってくる影がわかった。

「起きたんだ。だってよく寝てたから」

私は体を起こして悪びれずに言う。

「足下気をつけて。海に落ちるよ」

彼はゆっくりと私の横に来ると、足を投げ出して座った。

空を見上げて星の煌めきをしばらく堪能した後、彼は私を抱き寄せて頬に唇を寄せた。

「ジモンジトウは終わったの?」

私は笑みを浮かべて答える。

「終わったよ」

「負けて這い上がれーか。ほんと勇ましいねー、いい男っぷりだねー。ほんとホレボレする」

「ぷははっ」

私は彼に抱きついて体を預けた。

ほんとは知ってる。

この自問自答の相手役を彼が務めたがってるっていうことは。

一人で悩んで回答を導きだされるのが寂しいんだ。

でも。

「俺が言ってやっても、効かないんだもんなー。もー、実はこの場所が好きなだけでしょ?」

「うん」

起きたとき一人で寂しかったとか、自分には相談相手が務まらないとか、スネ気味なマサキに口づけしてご機嫌を伺う。



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