君に歌って欲しい歌


階段を急いで下りると、目の前に丁度その廊下に出た。


その先に、翔君がいるのが見えた。

やっぱこっちだったのか。


「翔君ー」


呼んでも返事が返ってこなかった。

あれ?

翔君は無視するような人じゃない。

聞こえなかったにせよ、廊下だから小さな声でも聞こえるハズ。


「・・・」

翔君は一点をただ、ジーっと見ていた。

「しょーくん?」

あたしは、翔君の元に駆け寄ってもう一度呼ぶと、ハッとしてからまたボーっと一点を見つめ、ゆっくりと腕を上げ、目の前を力なく指した。

「?」


翔君の指差す方向には、人だかり。

というのも、看護師さんや、ドクターがせかせかと一つの病室を行ったり来たりしていた。

「―――っ」



あたしの胸が、どくんっと跳ねた。

嫌な感情がいっきにあふれ出す。

もしあたしの勘が当たっているのなら

もしこの黒い感情があたしの中に留まってしまうというのなら




「しょう・・・くん?」



「・・・きむらさんが・・・」

嫌だ

「木村さんが・・・・」

そんな嫌な女になりたくない


「目・・・さました・・・・って」


―――――。


嫌だと思った。


彼女がいつか目を覚ますことを、どこかで恐れていた。


彼女への気持ちが、いつしか自分に向いてもらえるとバカな望みも、あたしの中にはあった。


彼女は、目を覚ました。



彼女が目を覚ますことを、あたしは深く憎んでしまった








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