トレイン


リカは照れた様子でなかなか笑顔を見せなかった。カメラを向けるといつも緊張して固い表情になってしまう。

「ほら、笑って。ピース」

僕がそういうと、リカはようやくカメラに笑顔を向けた。最新型のデジカメの性能はすばらしかった。リカが笑うと瞬時に顔にピントを合わせ、シャターを押すタイミングを教えてくれる。
ボタンを押し、画面に写し出されたリカの顔は、着ている浴衣に負けないくらい可愛いい笑顔だった。

「ちゃんと撮れた?」

僕はデジカメをリカに渡した。良く撮れていた。本当に良く撮れていた。今まで撮ってきた写真の中でもベストショットといっていいくらいだ。
でも、僕はその時気づいてしまった。画面の中にいるリカが、本当は笑ってなんかいないことに。
それは4年間リカと付き合ってきた自分にしか分からないことだった。おそらくリカ本人も気づいてないだろう。最新鋭のデジカメの液晶には、悲しい痛みをこらえているリカの心が滲み出ていた。


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