トレイン


「良く撮れてる」

リカはデジカメを見ながら笑った。

「もう一枚撮ってあげるよ」

「えーまたぁ?」

それから僕たちは、部屋や旅館の中庭で、お互いの写真を撮り合った。しかし、僕が撮ったどの写真にも、リカの本当の笑顔は写っていなかった。

静かで穏やかな時間がゆっくりと流れる。
部屋のテラスにある檜の風呂に二人で入り、夕食を済ませてから今度は貸切り露天風呂に入った。
夜になり、よりいっそうひんやり冷たくなった空気と、風に揺れ静かに音をたてる木々、丸太の切れ目から流れ出る温泉、暑い湯気が夜空に立ち込め消えていく。あまりにも出来すぎた空間だった。
普段の慌ただしい生活のせいかもしれない。時間の軸がズレたような感覚で、自分がこんな場所にいるのが突然不思議に思えてくる。ふとリカと目があった。そのままじっとお互いを見つめ合う。

「アハハハハ」

先に笑ったのはリカだった。僕もほぼ同時に空に向かって笑い声を上げる。自分でも何が可笑しいのか分からなかった。ただ自然に笑いが溢れた。

「何が可笑しいんだよ」

「分かんない。ちょっと変な感じがしただけ」


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