君に、
Prologue  side+ナツ





寒さに思わず、身を震わす。






昨日までは、まだ暖かさが抜けきれてなかったのに。
学ランを着てきて正解だった。

顔を学ランにうずくめて、クンクンとにおいを嗅ぐ。
昨日までタンスの中にしまっていたせいか。防虫剤の臭いが微かにした。



朝の駅は混雑していた。

俺にとってはいつも通りの、見慣れた光景だ。
時計をみる。
AM7:15。

もうすぐ電車がホームにやって来る。

凍える手先を温めようと、ポケットに手を突っ込んだ。



「・・・きゃっ!!」



後ろで、叫び声がした。
同時に、ドサッと何が落ちる音も。
猫よりも猫背で体を縮めていた俺は、ゆっくりと振り返る。


そこにいたのは、短髪の女の人。

彼女の前には林檎やバナナ、たくさんの果物が転がっていた。
彼女は地面に落ちている果物を、腰を屈めて必死に拾い集め、手に持っている紙袋に入れていく。


果物はあちこちに転がっていて。
なかなか集まりそうにない。



周りに人は大勢いたけれど、手伝おうとしている人は、いなかった。





< 1 / 11 >

この作品をシェア

pagetop