君に、
Prologue side+ナツ
寒さに思わず、身を震わす。
昨日までは、まだ暖かさが抜けきれてなかったのに。
学ランを着てきて正解だった。
顔を学ランにうずくめて、クンクンとにおいを嗅ぐ。
昨日までタンスの中にしまっていたせいか。防虫剤の臭いが微かにした。
朝の駅は混雑していた。
俺にとってはいつも通りの、見慣れた光景だ。
時計をみる。
AM7:15。
もうすぐ電車がホームにやって来る。
凍える手先を温めようと、ポケットに手を突っ込んだ。
「・・・きゃっ!!」
後ろで、叫び声がした。
同時に、ドサッと何が落ちる音も。
猫よりも猫背で体を縮めていた俺は、ゆっくりと振り返る。
そこにいたのは、短髪の女の人。
彼女の前には林檎やバナナ、たくさんの果物が転がっていた。
彼女は地面に落ちている果物を、腰を屈めて必死に拾い集め、手に持っている紙袋に入れていく。
果物はあちこちに転がっていて。
なかなか集まりそうにない。
周りに人は大勢いたけれど、手伝おうとしている人は、いなかった。