【短編】吾が輩は、
わかっていた。



どれだけ独り善がりか。



ただ言葉を交わしたことのあるだけのあたしなんか、恭也は見てはくれないということも。



でも、期待してた。



もしかしたら、チャンスがあるかもって。



だって、自分に対する恭也の目は、少し違って見えたから。



でも、気付いた。



自分も結局、恭也の友達として傍にいたかったんじゃない。



特別に、なりたかった。



“妹のような存在”で、終わりたくなかった。



自分から声を荒げたくせに、嶌子は自分が怒鳴られたかのように押し黙った。



結局、自分の浮かれた行動が恭也を不快にさせていたに違いない。



自分で種を蒔いておいて、出てきた芽に不満をぶつけるようなものだ。



ため息をついて、嶌子は寝室に引っ込んだ。



話したくなかった。



自分が悪いのはわかっていたが、我が儘が言いたかった。



恭也が悪いことにして、かまってほしかった。



どれだけ勝手か、自分が一番わかっている。




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