【短編】吾が輩は、
恐る恐る、嶌子は襖を開けた。



自分がなぜここに引きこもったかはもう完全に頭にない。



「恭也?」



襖から顔をのぞかせると、その隙間からするりと灰色の身体が滑り込んだ。



「お前なあ、言いたいこと言って、トンズラか。」



暗闇で恭也の目が爛々と光っている。



うなだれるしかない。



「俺の話も聞かずに閉じこもりやがって。
俺がどんだけ苦労したかこんちくしょう。」



口が悪い悪い。



昔のことが思い出される。



久し振りに恭也の歯切れのいい罵り言葉の羅列を聞いた。



「聞いてんのかよお前はよ。」


「うん。」


「うんじゃねえよ。
あんな、俺だって別にお前と話したくないわけじゃねーんだよ。
俺だって、何言えばいいかわかんねんだよ。」



そんなの、あたしと同じように…。



いくら恭也が口下手だといっても、昔話していたように話してくれればいいのに。



「だから、泣くなよ…。」



打って変わって、萎れた様子で恭也は嶌子の足に手を置いた。



と、と遠慮がちに置かれた手は、ソラと同じ手のはずなのに、感触が違って思えた。



「ゴメン…。」



謝って頭をなでると、恭也はされるがままになっていた。



















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