ダメな僕のレクイエム
「先生!センセっ!」

ちかは鞄を小脇に抱えて神谷を追いかけた。

「何だよ 煩いやつだなあ…」

神谷はニヤッと笑ってセーラー服の襟をひらつかせながら息を切って走ってくるちかを見た。

「歩くの早いねぇ!」

ちかは少し頬を膨らせて不満気に言った。

「お前がちっこいからだよ」

神谷は笑いながら、追いついて来たちかの頭をクシャっと撫でた。

「へへ。追いついた。…ねぇセンセどこ行くの?」
「どこって…帰るンだよ!奥さんとチビが待ってるからね~」

神谷は笑いながら言った

「あっ そ !そんな事聞いてないもん!」

ちかは怒ったように言った。

「何拗ねてんだよ!」

神谷は笑ってちかを見た。
神谷がちかに英語の課題出してから二月ほど経った。ちかはその間遮二無二にがんばって課題をこなしていった。 英語の成績を上げたいのももちろんそうだったが、ちかはいつしか神谷の喜ぶ顔が見たいと思うようになっていた…


「奥さん可愛い?」

「え?」

「ああ!いやいや!今の無し無し…!」

ちかは焦って発言を取り消した。どうしてそんな事を聞いたのか分からないまま恥ずかしさで逃げ出したい気分だった。

神谷は少し笑うと歩きながら言った

「なあ 青井…」

「は、はい」

「お前は可愛いぞ…」

「え?!!」

「だからこそ…、もっと勉強して、もっと可能性に挑戦して、羽ばたいていかなきゃな」

「はい……」

ちかは歩を緩め 神谷との距離を開けて行った。

「ん どうした青井?行くぞ」

ちかは笑って答えた

「センセ、私買い物あったんだ… こっちから帰るね」

「ああ そうか、気を付けてな…遅くまでウロウロするんじゃないぞ!」

「うん…また明日…」

ちかはそう言うと神谷の前から走り去った…


走りながらちかは胸がキュンキュン痛み…涙がこぼれそうになるのを必死に我慢した。


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