ダメな僕のレクイエム
ちかの家庭は比較的裕福な家庭で、ちかは小さなころから贅沢ではないにしても、不自由のない暮らしをしてきた。

それに対して神谷は若い頃に父親を亡くし、苦労をして大学を卒業し教師になった。

当時ちかは17歳 神谷は32歳だった。

苦労を知らず真っ直ぐに育ったちかを、神谷はよく世間知らずだと笑ったものだった。


神谷がちかに英語を教えるようになってから、二人の間は確実に距離が縮まっていたが、神谷はどこかわざとちかを遠ざけているように感じることもあった。

それは神谷が先生という立場だったからか…家庭があったからか…


ちかは更にアルバムを捲った


そこには一枚の海の写真。


ちかはいつも悩みや思うところがあると、通学途中にある海水浴場の砂浜に続く階段に座って海をボーッと眺めるのが大好きだった。


もう残り少なかった夏の匂いも季節から過ぎ去り、空が赤く飛行機雲を照らす…


ちかはこの日、神谷とケンカをしてしまった。ケンカという表現が正しいかどうかはわからないが、ちかは自分の中で大きくなる神谷の気持ちをどうしていいか判らず…神谷に当ることがあった…

いつもなら放課後神谷の英語の補習をうけるのだが、その日は何も告げずに補習をすっぽかしてしまった…


ちかは海辺続く階段に腰をかけぼんやり海を眺めていた…

ケンカの原因は些細な事だった、神谷が英語の苦手な他の生徒にも補習を勧めていたのを聞いてしまったのだ。
ケンカと言うよりもむしろちかが勝手に拗ねている、と言った感じだった。

でもちかには何か無性にそれが大きく、悲しく感じられた。


「神谷のバカ!!!!!!」

ちかは海に向かって叫んだ。

「誰がバカだって!?」

声にはっとして振り替えると階段の上に神谷が立っていた。
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