ダメな僕のレクイエム
ちかは暫くそんな神谷の様子をただただ茫然と見つめていた

神谷のその横に寄り添う様に歩いている彼の妻は、時々神谷の腕にしがみついたりして、楽しそうに笑っていた。

少し短めのスカートから伸びた細い足に似合い過ぎているシルバーのハイヒールがちかの胸を刺した。


神谷とその家族が見えなくなるまで脱け殻のように眺めていたちかのところへ森田がやって来た。

「おい、青井!ここにいたのか?」

「…」

「おい!」

「えっ!あ、ああ ごめんね、ちょっと…」

「平気か?」

森田が心配そうに聞いた。

「うん… 大丈夫大丈夫!ごめんね さあ 行こう」

そう言ってちかは速足で歩き始めた。

「なんだよ…」

少し不服そうに言いながら森田も歩き出した時、ふと 何かを感じて、彼は今までちかが見つめていた方へ振り返り目を向けた。

(何を…?)

そう思いながら視線を戻そうとした時、ショップのウィンドウ越しに森田は神谷を見た

(神谷先生…?買い物か…。…!?。まさか青井!?)


心の中でちかを密かに想っていた森田は 何かに頭を叩かれた様な気がした。


そんな森田をよそに、ちかは麻里と小林の方へ歩いて行った。

ふと ショップのウィンドウに映る自分の姿に気付いたちかは 改めて自分自身を眺めてみた

いくら目一杯オシャレして背伸びしてもウィンドウに映る自分は子供に見えた。

神谷の妻の大人の色気や、側によらなくても分かる大人の香り

そしてハイヒール…



負けた…


とちかは思った

もちろんこういう事は単純に勝ち負けだけではない、とは思っていたが、

それでもちかは 負けた と思った。

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