ダメな僕のレクイエム
その日私は、ようやく見慣れ始めてきた病院までの細い道を歩いていた。
まさか、その日が私と君との時間をまた 動き出させることになるとも知らずに…


そして…あんな姿の君を見るとも知らずに…



青井ちかは、ようやく二日振りに止んだ雨が濡らした道を勤務先の病院まで歩いていた。朝日に濡れて光る道端の樹々をながめながら、ゆっくりとした足取りで小高い丘の中腹にある病院に向かう。
ベッドタウンとして賑わっている街の外れにあるその建物を見上げる度、何故か胸が締付けられるのは私だけだろうか?ちかはボンヤリそんなことを考えながら歩を進めた。
北区総合神経医院、それがちかの勤務先だった。大きな入院隔離病棟を備えたその病院は、まるで陸に浮かぶ大きな幽霊船のように見える。

ちかはいつものとおり職員通用口から2階の職員ロッカーへ続く階段を上がり、ロッカールームで手早く薄い水色のナース服に着替えた、長い髪を後ろで束ねてキャップをかぶると深く深呼吸をし、小さく 「よしっ」とつぶやいた。

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