ダメな僕のレクイエム
森田は車を走らせると、隣町のショピングセンターに向かい、立体の駐車場で車を止めた。

「ネクタイ見たいんだ」

そこに着くまでの車の中で森田が言っていた。

車を降りると二人は店舗に繋がっている渡り廊下を歩いてショピングビルに入った。

ちょうどそこはレディースのフロアでネクタイを見るにはエスカレーターでワンフロア上に上がらなければならない。

エスカレーターに向かう途中にシューズショップがあった

丁度通路に面した位置に華やかなハイヒールの靴がディスプレイしてあった。
そこに並んでいたシルバーのハイヒールにちかは少し目をやった。


「ハイヒール嫌いなんだ…危ないし、お前には似合わないよ」


付き合い始めた頃に森田がちかに言った事があった。
普段あまりちかを束縛しない彼には珍しい言葉だった。

それ以来ちかはハイヒールを履くのを一切止めていた。

森田はそのままシューズショップを通り過ぎるとエスカレーターに乗った。歩くのが早い彼の後をちかは小走りでついて行ってエスカレーターに乗った。




ちかはふと、ゆったりと、ゆっくりと流れる様に歩く神谷の姿を思い出していた。


「センセ、歩くのおっそーい!」

買い物をする時、一緒にいる時、ちかはいつもそう言って神谷をからかった…

そんな時神谷は何も言わず、ただ笑っていた




目を上げると森田が後ろのちかを振り返り笑いかけてきた。

「ちゃんとついて来てるよ」

ちかは笑って森田に答えた。

森田は笑ってちかの手を出して来た。

ちかは差し出された手をそっと掴んだ。

紳士物のフロアで二人はネクタイを探した。

あれでもない、これでもない と二人は笑いながら、ちかは時々森田の首元に何本かのネクタイを当ててみたりしながら 似合いそうなネクタイを選んでやった。

「友人の結婚披露パーティにしていくネクタイなんだ」

「じゃ かっこよくしなきゃね」

「可愛い女の子たくさんくるかな?」

「じゃ 目立っておいでよ」

ちかは笑った

「ナンパされたらどうしよう」

「いいじゃない!がんばれ」

森田が少し呆れた顔をした。

「ん?どしたの?」

森田が苦笑いしながら答えた

「お前さあ、妬いたりとかしないの?」
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