ダメな僕のレクイエム
勇気
ちかが襲われた事件があってから、神谷はちかを避けるようになっていた。
放課後の英語の補習もなくなり、ちかは学校と家をただ往復するだけの毎日だった…

学校で顔を会わせても神谷は素っ気なく、必要な事以外は話さなくなってしまった。

一方で学校ではちかの事件に関する噂がどこからともなく流れちかは何とも居づらい雰囲気で毎日を過ごしていた。

そんな中森田淳史は事ある毎にちかを気遣い、心配してくれた。



「ねぇちか」
屋上で一緒に弁当を広げながら麻里が言った

麻里は事件のあと、直ぐに家に駆けつけちかを励ましてくれた。大切な存在だった。

「ん?」

ちかはお弁当のご飯を口に運びながら麻里を見た

「森田君…どう思ってるの?」

「え!?」

麻里が少しうつ向きながら続けた

「森田くんの事 どうなの?」

「どう って… 感謝してるよ すごく 助けくれて…」

ちかが少し改まって答えた

「そんな事聞いてないよ!!!」

麻里が声を荒げた。

「麻里 … 」

目を反らしたちかに麻里は続けた

「好きなの!?どうなの!?

「…………」

「彼がちかを助けて、最後の大会 出れなくなったの知ってるよね!?」

麻里がちかの顔を覗き込んだ

「知ってるよ!」

ちかが答えた

森田の事件、ちかを助けた行為は警察に不問に伏されたが…高校の所属するハンドボールの連盟側がそれを問題視したのだった。

如何なる理由によれ 健全な高校生たる者が繁華街における暴力行為には至らない

と その見解は厳しいものだった…

学校側はあくまで正当な行為であることを主張したがそれは受け入れられなかった。

彼がキャプテンを勤めるそのチームすら大会の出場が危ぶまれ、事情を知った森田は部を退部した。

チーム自体の出場停止はそれによって免れたが、森田は結局一人で責任を被る形になった。

顧問の教師と神谷は何度も嘆願書を提出したが…受け入れてはもらえなかった。

その事実はちかを苦しめた。
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