ダメな僕のレクイエム
ちかは神谷を待っていた…

いつもの帰り道…


ちかは 震える体と張り裂けそうな想いを抱えて

神谷を待っていた


お願いです…少しだけ勇気を…

勇気を…


祈る気持ちで待っていた…


神谷が一度だけちかを抱き締めた 海の傍の道


神谷はいつもそこを通るはずだった…



夕陽の中をゆったりとした足取りで歩いてくる


神谷だった


ちかは大きく息を吸うと
海岸からの階段を駆け登った

何度も足がふらつきそうになる…

長い階段に思えた

息を切らしながら 神谷の前に立ち 神谷を見つめた

まだ少しだけ遠くを 下を向いて歩いていた神谷はふと立ち止まり


ちかを見つけた

神谷は少しだけ立ち止まっていたが

やがてちかの方へ歩き出した

心臓の鼓動が自分にも聞こえる と思えるほど ちかは 張り詰めていた

何度か目眩を起こしそうになるのを堪えて 立ったまま 神谷を待った

神谷は歩調を変えず ゆっくりと 流れるような歩き方で


やがてちかの前に立った

向かい会った二人の影が伸びていた


神谷は優しい顔をしてちかを見つめた

ちかは一度目を深く閉じると



「先生!」


と言った

神谷は少しだけ笑ってそれに答えた


勇気を… ちかは 心を決めた


「先生! 好き!」

ちかの目から涙が溢れた

「青井…」

「好き!好き!好き!大好きです…」

泣きながら叫ぶように言った

「好…き……」

最後は言葉にならなかった

震える両手を握りしめ、ちかはうつ向いて その場に崩れそうになった


その身体を神谷がしっかりと抱き留めた


神谷はちかの震える身体を抱き締めた

泣きながらちかは腕の中で神谷を見上げた


目を閉じた


神谷がちかにキスをした…


歩道に伸びた影は長い時間 一つになった…
< 38 / 45 >

この作品をシェア

pagetop