ダメな僕のレクイエム
ちかは目の前で車イスに座っている神谷の頬にそっと手を当ててみた

虚ろな目の神谷は無反応だった…

ちかは涙を堪えると立ち上がり、部屋のカーテンを開け、仕事を始めた。
一通り仕事を終え、部屋を後にするときも神谷は動かず、ただ宙を眺めていた。


ちかは部屋を出ると閉めた扉にもたれかかり、気持ちを切り替えて歩き去った。


昼休みに食堂で携帯を見ると 森田からのメールが入っていた

『今日は5時半上がりだよね?迎えにいくよ』

ちかは 少しためらったが

『ありがとう 今日は仕事早いの?お願いします』

と返し再び仕事に戻った。


陽が西の山あいに沈み始めた頃 ちかは 仕事終えナースステーションからロッカーに向かおとした

その時担当のドクターが慌ててナースステーションにやって来て ちかを呼び止めた

「青井さん少しだけいいかな?急患なんだ!」

ちかは

「はい 分かりました!」

と答え 足早に走り去るドクターの後を追って走った。




急患の対応を終え ロッカーに戻った時には6時を20分も過ぎていた。

ちかは携帯をチェックした

5時25分に

『着いたよ 正面玄関前ので待ってるよ』

と森田からメールが入っていた。

ちかは慌てて着替えると髪を整えて ロッカーを飛び出した。

一階に降りて正面玄関に向かうと、玄関前の送迎用の駐車スペースに森田の車が止まっていて、例によって その車の横で立って待っている森田が目に入ってきた。

ちかは小走りに正面ホールを抜けると自動ドアの玄関を飛び出した

森田は走って来るちかに気づき 片手を挙げて笑った

ちかは 走りながら

「ごめんなさい!」

と言った、駆け寄り再び

「ごめんなさい!急患で…待ったよね…」

と言った

「大丈夫だよ」

森田は優しく笑って車のドアを開けようとした、その時

「青井さん」

と声がした。

二人が声の方を向くと、主任の杉山が遅番の出勤をしてきたところだった。

「あ お疲れさまです」

ちかが頭を下げた。

「お疲れさま」

杉山が笑って二人を見た。
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