月の天使【短編】
しばらく、お互い無言に無言の時間が流れた
その間にお月様は、雲の中に徐々に隠れて見えなくなっていった
僕達二人を、さっきまで包んでいた月明かりも無くなりお互いの顔がはっきり見えなくなった時だった
「あのさ…私が死んだ時の事、嫌でなかったら淳くんに聞いてほしい…」
正直な所、聞くのが怖かったが聞かなきゃダメな気がしたから黙って頷いた
「…私は夏休みに交通事故にあってね…それでこの病院に運ばれてきたんだ……左足と左腕を骨折しただけなんだけどね…私…元々…心臓が悪かったの…それで夜に発作があって…苦しくて…寂しくて…一人で…ひうっ、ひうっひぁっ…」
「……うん…うん…」
死んだ事はない
この世で生きている、全ての人はきっと
僕もない
どうなるかなんて分からない
死んでないんだから
しかし、彼女は知っている

苦しみ、痛さ
なんて、言葉では到底表現できないであろう
それを

僕は、彼女をおもいっきり抱きしめた
きっと、彼女の為じゃない
自分自身の為だと思う
『死』が怖いからだ

彼女の肉体は、この世にはない
けれど、手には彼女の温もりがどこからか伝わってきた
「聞いてくれて…ありがとう…」
「ありがとう…話してくれて」
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