月の天使【短編】
僕のベッドは入り口から見て、四人部屋の病室の窓際の右側にある
そこで、僕はベッドに座り彼女を面会用の丸いすへ勧めた
ベッド横の小さな引き出し付きの机の上にはビニール袋に入れて置いた…正確には優子さんが入れてくれた、クロワッサンの袋を開けて食べた
「おいしい、なんか…そこら辺のスーパーで売ってるのと違う気がする」
「…本当に?」
「うん、本当に」
僕は少しずつ手でちぎりながら、ゆっくり味わいながら食べた
食べながら彼女の方をちらりと見ると、笑顔でこちらを向いていた
その笑顔に、また胸がドキッとした
それに気付いたのか彼女は「どうしたの?」と訊いた
「うううん。…何でもない」
僕が食べ終えても、彼女はまだ笑顔で僕を見ていた
彼女は僕が話し出すのを待っているようだった
「えっと…」
僕は何か話さないとと思ったが、何を話して良いか分からずいた
「えっと…明日は晴れかな?」
考えに考えてやっと出たのは、そんな言葉だった
「うーん…」
彼女は少し考えて立ち上がり窓の外見た
「えっと…明日は晴れかな?月が出てる」
彼女はなぜか嬉しそうだった
僕も窓の外を見ると、夕焼けと反対方向に薄く白っぽい月が見えた
「よかったら…今夜、消灯後に一緒に屋上で夜空見ない?」
窓の外を見たまま彼女は、突然そう言った
「え?」
一瞬、自分の耳がおかしくなっているのかと思った
『よかったら…今夜、消灯後に一緒に屋上で夜空見ない?』
確かに僕の耳にはそう聞こえた
「えっと、消灯後に?」

「うん。消灯後に屋上で待ってるから…じゃあ、また夜に」
そう言うと、彼女は僕の顔を見て部屋から出ていった
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