銀杏ララバイ

「僕だってそうさ。」


「で、しょう。 だからね、今晩私に付き合って欲しいのよ。

私だってアレは夢かも知れないって思っているわよ。

でも本当かも知れないでしょ。

半信半疑。ギナマと暮らした十日間をどう思うかも問題になって来るけど、

私たちは確かにギナマに会ったわよね。

いろいろな話を聞いたわよね。

そう信じているのなら、
私が鳶から聞いた話にも付き合ってよ。

実を言うと、あそこへ夜一人で行くのは怖いの。

昼間なら観光客が大勢いるけど、

ああいう神社の周りには家など無いし、

夜でないと刀を探せないのよ。」


「そうか。お姉ちゃんはさっき下見に行っていたのか。

分かった。夕食後、早く風呂に入って鳶人を寝かせたら、
そっと出かけよう。」



かおるの、一人では怖い、と言う言葉が効いたようだ。

孝史は張り切って声を出した。

刀云々は信じていないような孝史だが、

今まで一緒だったかおるが、
本来なら自分よりしっかりしている姉が怖がっているのなら、

弟として無視は出来ない。

その行動への目的は分かる。

そんな男心がくすぶられたようだ。






「お姉ちゃん、何か見える。」



孝史は施設を出る時に懐中電灯をリュックに入れていた。

それを思い出して持って来たのだが、

神社への所々の箇所には薄暗い外灯があり、

幸いな事に使わなくても何とか辿り着けていた。


そして弁財天が祀られている社あたりは、

人気は無くても自然の薄明かりも加わり、

孝史は懐中電灯をかざしているが、さして役には立っていない。



「ちょっと待って。会いたいと言う気持ちを精一杯念じれば、

その背後に刀が出て来るような事を言われたから… 」



頼られた孝史のほうが、
実際は不気味で怖くて黙っていられない心境だった。

かおるのほうは、
孝史が一緒と言う事で気持ちが座っている。
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