銀杏ララバイ
そして鳶が話した事を実行に移した。
何とかして父に危害が及ばないようにしなければ、
そのためには、
自分に声を掛けたあのギナマの父・
実鳶を呼び出して何とかしてもらいたい。
普通に考えれば、
そんな事はまさしく夢物語なのだが、
それまでにも現実離れした現象を目にしているかおるには、
躊躇の気持ちは無かった。
刀さえ出てくれば、全てうまく行くように感じられた。
「お姉ちゃん、
小屋の後ろから白い煙のようなものが出て来たよ。
あそこかなあ。」
しばらくして、孝史が囁くような声でかおるに告げている。
そうか、弁財天の背後と言う事は社の背後と言う事だったのか、
と思いながら、
かおるは孝史と共に背後に回った。
しかし… 確かに刀は現われた。
が、何故か刀は2本、
それが鞘のまま闘うように追いかけたりぶつかったり、
そして離れ、またぶつかり…
宙で、あたり一面靄がかかったようになった空間で、
2本の刀が争っているではないか。
そんな事が起ころうとは考えもしなかったかおるは、
驚き慌てて孝史の手を掴み、
弁財天の足元に隠れるように座り込んだ。
しかし、不思議な事にしばらくすると、
かおるはその不可解な現象を見ても、
怯えや震えを感じなくなっていた。
それどころかその2本の刀を瞬きもせずに見つめている。
一本の刀はあの時ギナマが、父の形見、と言って見せた実鳶の刀・正宗のようだが、
もう一本もかなり豪華な雰囲気を出している刀だった。
そして、それまでは鞘をつけたままの2本の刀だけだと思っていたのが、
いつの間にか二人の人間が構えている鞘を抜いた刀に変わっていた。
「お姉ちゃん… 」
孝史が震えた声で薫子の手を固く握った。