銀杏ララバイ
確かに孝史は、
母が死んでからはかおると、
泣きながら将来の不安ばかりを話していた。
どうする事も出来なくても、
何を考えても怖かった。
そう言えば母の死以来、
こうして子供らしい会話は、
かおるもそうだが初めての孝史だ。
まだ三学期の途中だが、
あれ以来学校へは行っていない。
「ギナマ、まだなの。
どこかが痛いんだね、大丈夫。」
いきなり孝史がサッカーの話を閉じ、
ギナマに声を掛けた。
「もう少し… 大丈夫だよ。」
ギナマは辛そうな声で応えた。
「お姉ちゃん、ギナマに肩を貸してあげてよ。
ギナマは大丈夫、って言っているけど辛そうだよ。
僕は背が低いから…
お姉ちゃんならちょうど良いよ。
その荷物、僕が持てるから。
ギナマの手、益々冷たくなって来た。
普通なら歩いていれば温かくなるのに…
やはり調子が悪いのだよ。」
孝史の的確な言葉で、
かおるの頭を占領していた後悔の念は吹っ飛び…
かおるはギナマに肩を貸す形で歩き始めた。
バッグも、別に孝史に持たせなくても十分持てている。
それにしても、
ギナマは確かにどこが悪いかは分からないが病的だ。
腕をかおるの肩に回して体重を預けているはずなのにとても軽い。
孝史と同じぐらい、
いや、もっと軽いかも知れない。
かおるは、自分より背の高いギナマの、
存在感のない軽さに驚きながら、
それでも自分のボーイフレンドと言っても通りそうなギナマの体を、
こんな時に感じている自分。
その気持ちに戸惑いながら
黙って前を見て歩いている。
そう、初めて感じた異性の感触に、
思春期のかおるの体は、
冷たいギナマのそれとは反対に、
異常にほてり、
そしてその自分の反応に訳もなく戸惑い、
ギナマに悟られないようにと
必死に平然とした態度で歩いている。