銀杏ララバイ
「ここなの。」
どのぐらい歩いたのか…
孝史も口を閉ざしてただ黙々と歩くようになっていた。
自分の心と戦っているようなかおるには、
それがどのぐらいなのか
全く見当が付かなかった。
ただギナマが一軒の家、
と言うより,かなり時代めいた大きな門構えの屋敷の前で立ち止まり、
大きな門の隣に作られている小さい扉を開けた時、
孝史が声を出した。
こんなのは時代劇に出て来るようだ、
と孝史の声は言っている。
それにしても今時こんな建物があり、
人が住んでいるとは…
2人を誘うように,
扉を開けたまま中に入るのを待っているようなギナマの様子に…
躊躇無く中に入っていた2人だった。
「家の人に聞かなくて良いのかしら。
こんな時間に… 」
腕時計を見なくても、
外の様子からかなり遅くなっている事は想像が付いたかおる、
人気を感じない不審さもあって、
玄関まで入ってからギナマに声を掛けた。
中は外形から感じたとおり、とてつもなく広い。
玄関に立ってみれば
幅のある廊下が玄関からいろいろな方向へ伸び、
全体に薄暗い感じはするが、
それでも所どころには明かりがついている。
「ここは私の家、誰もいない。
台所へ行けば食べ物があるし暖かいから… 」
ギナマは立っているのが辛いのか、
壁にもたれて2人の様子を見ている。
2人には、
とにかく温かいところへ行こう、
と誘っているように見えた。
誰もいないって…
ギナマは16歳と言っていたが、
いくら16歳でも
こんな大きな家に一人で住んでいては寂しくなるだろう。
それどころか,どうして生活しているのだ。