銀杏ララバイ
「仕方が無いではありませんか。
あの子供たちだけで生きて行くには若過ぎる。
銀杏丸はあの2人が大好きなのだ。
確かに彼らは信頼に足る。
母上の鷲が銀杏丸をさらおうとした時の事をお忘れですか。
あの石の攻撃。
子供ながらに見事でした。
かおるは、分をわきまえた策士です。
しかし残念ながらまだ子供です。
だから成長するまでは保護者が必要だ。
5年前に海に投身自殺した男を見た。
それが2人の父親だったと言う事は、
何かの意志が作用されたのかも知れないが、
シナリオは整った。
私の力ではあと10年が限度ですが、
10年あればかおるは26歳、
孝史も成人する。
あの宿が住まいとしてあれば銀杏丸を守って生きて行ける。
その時にはあの子も14歳になっている。
周りにはあの子の好きな銀杏も沢山植わっている。」
「馬鹿な。お前はそれで良いと思っているのか。
800年続いた我が家の形態を壊したままで… 」
「当たり前でしょう。
大体霊魂がいつまでも現世に未練を持っている方が馬鹿げている。
穢れの無い銀杏丸は、
あの宿の子供として人生を出発しているのです。
一度死んだ我々には無理です。」
「お前はそれで良いだろうが… 」
「そうだ。母上。
もっとこの世界を見たいとお思いなら
東京の文京区と言う所にある東京大学のキャンパスへ行かれたらどうです。
その大学の紋章は銀杏の葉が二枚うまく並んでいます。
そしてそれを証明するかのように
広いキャンパスには銀杏の木が数えられないほど植わっています。
かなり古いものも多いですよ。
そこを居場所として勉学に励む若者を眺めていてはいかがです。」
「馬鹿な。
いくら私が北条の出でも、坂東侍など興味は無いわ。
私の居場所はこの鎌倉、
源氏の統領・頼朝殿が築かれた武家風の中にも優雅さを忘れない、
鎌倉の地以外は興味が無い。」
その言葉…
どう考えても尼将軍・北条政子だ。