銀杏ララバイ

「しかし800年の間に世の情勢は変わりました。

源氏の流れをくむ徳川家康が、
あの地を江戸と定め幕府を開いて以来500年、

今は東京と言う地名に変わっていますが、
その盛況ぶりは大したものです。

そしてその大学からは日本を背負うような若者が沢山生まれています。

母上の気に入る若者がいるかも知れませんよ。

母上を慕う霊たちが集まって来ても、
あそこなら広いから居場所に困る事はない。

霊たちにとっても良い刺激になるかも知れない。」


「ふーん、お前はどうしても私を追い払いたいのだな。」


「そこまでは言いませんが、
銀杏丸へのちょっかいは許しません。

それにこの木が死んでしまった以上、
もはやここにいる必要は無いのです。

まだ霊として残りたいのでしたら、
手ごろな場所を見つけて移動する事も、
一つの選択肢だと考えただけです。

母上、来年の今頃、またここで会いましょう。

ここは何と言っても我々の故郷、
思い出がいっぱい詰まっていますから忘れるわけにはいきません。」



そう言って実朝(実鳶)の鳶は暗闇の中へと消えていった。



「奥方様、どうされます。」



しばらくすると1羽の鳶が姿を現し… 
どうやら話を聞いていたらしい。



「うん。金光、お前はどうしたい。」


「私ですか。
私は奥方様の行かれるところでしたらどこまでもお供をさせて欲しいと思っています。

されど、今の話には興味があります。

私もこの地を離れた事がありませんので… 

銀杏の紋章を持っている大学と言うところを見てみたい気がします。」


「お前もそう思うか。
実は私もそんな気がしている。

勉学の好きな者には、
そこで彼らと一緒に学ばせても良い。

じゃあ、ちょっと覗きに行くか。」



全て実体の無い霊魂の話だが、

話だけを聞いていれば現世でも通用する話になっていた。

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