銀杏ララバイ

それから一年後。

かおるは電車で一駅の高校へ編入し、
もうすぐ最終学年を迎えようとしている。

大学進学は… しないことにした。

母が存命中から高校まで、と決めていた。

あの頃は、高校を卒業したら働いて、

母を少しでも楽にさせたい、と思っていた。

そして今は… 
父が朝から晩まで働き通しの【イチョウ屋】にとても愛着を持っている。

父と一緒に【イチョウ屋】を盛りたてていきたいと思っている。

今も時間が許す限り手伝っているが… 

高校では将来のためにコンピューターに力を入れている。

客商売には絶対に必要な気がしている。


孝史は中学生だ。

クラブには入らず、すぐ帰る、と言っていたが、
みんなの勧めでサッカー部に入るようだ。

しかし鳶人は… 本来ならぴかぴかの一年生。

真新しいランドセルに大喜びをしている時期のはずだが… 



「どうしてホームスクールの形では駄目なのですか。

鳶人は学校生活に合わないのです。

無理に通わせて体調を崩すような事になれば誰が責任を取ってくれるのです。」



今、かおるが、
客の影が無い昼下がりに訪問して来た、
教育委員会の人と、小学校で担任となる教師と校長を前にして、

頬を紅潮させて興奮気味に息巻いている。

鳶人が入学式に出席せず、
父の名で,

ホームスクールで勉強をさせたい、と言う許可書を提出したから
こういう場面が生じていたのだ。


昨年の春、かおるや孝史が通学するようになり、

鳶人も近くの保育園へ通う事になった。

しかし鳶人はその日の内に体調を壊し、

結局はそれだけで終わってしまった。

医者の話では、
精神的な衝撃が大きかったようだ、と言う事だった。

保育園は大したことではない、と誰もが思っていた。

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