銀杏ララバイ

家で二人の帰りを待ち、
それからの数時間を一緒に過ごす生活が
鳶人には適していたようだ。

そして一年後、

就学年齢になっても他の子のようにはならなかった。

ランドセルを見ても少しも喜ばず、

入学式のために、孝史が父と一緒に付きそって江の島大橋を渡っている途中で、

鳶人は呼吸困難の様子を表していた。

それでその夜家族で話し合い、

ホームスクールで勉強させようと言う事に決めた。

朝は忙しい父だが、
それでも学校が始まる時間前に学校へ出向き、

家族の気持ちを校長と担任に話して来た。

すると、昼過ぎに、

教育委員会の人も加わっての訪問が始まった。

かおるだけではなく、
孝史も入学式の翌日だったからまだ半日登校、

一緒に話に参加していた。

と言っても、孝史は鳶人と一緒に奥の部屋にいた。



「しかし、学校に馴染めない児童は毎年います。

それでも一ヶ月も過ぎれば何とかやっています。

おうちの方が心配されるほど子供は弱くはありませんから大丈夫ですよ。」



校長が愛想の良い笑みを浮かべ、

子供の事は学校に任せてくれ、

と言わんばかりの包容力のある話し方をしている。

かおるの言葉など気にもならないようだ。



「でもうちの子は… 
生まれながらの虚弱体質で
発育も遅いですし、

第一学校へ通う事を嫌がっているのです。」



父は穏やかに、素直な気持ちを伝えている。



「それは皆さんが甘やかして… 
いや、失礼、過保護に育てられたからではないですか。」



教育委員会から来た人が率直な意見を出している。

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