銀杏ララバイ
帰って来たところと言うのに既に明かりがついていた。
一日中明かりをつけているのだろうか。
かおるの頭は混乱していた。
そして孝史も…
それまで自分たちが暮らしていた様子とあまりにも異なっているからか、
緊張した面持ちで玄関に立っている。
やはり孝史も、
誰もいないと言う言葉が引っかかっているのかも知れない。
玄関に立ったまま動こうとはしない2人を、
黙って見ているギナマ。
しかしその様子はどう見ても辛そうだ、と感じたかおるは
暖かいと言っていた
台所へ行ったほうが楽かもしれない、
と考え,孝史に合図して靴を脱いだ。
「わぁ、すごいご馳走だ。
これってギナマの食事なの。」
台所と言っても普通に言えばダイニング、
他は完全な和風なのだが、
そこは広々とした洋室で
立派なダイニングセットが設置されていた。
そして、テーブルの上には
色とりどりの料理が並べられている。
「沢山食べろ、って
いつも侍女がこんなに作る。
孝史、良かったら食べてくれ。」
テーブルの上に並べられた料理を見て、
興奮した声を出している孝史を見て、
照れくさそうな顔をしてギナマが進めている。
「えっ、いいの。
お姉ちゃん、食べようよ。
こんなにあるから…
沢山残しても、もったいないよ。」
育ち盛りの小学生の孝史、
ここに入って以来、目から離れなかったテーブルの上の料理を、
食べてくれ、と言われれば、
夕食に食べたはずのパンなど完全に忘れている。
そんな様子の弟を見ながら、
照れているかおるだったが、
それまでより明るい灯りの中で、
はっきりとギナマの顔を見て驚いた。
それは…
まさしく彼は5年前、
あの銀杏の木の下で会った少年ではないか。
あの時の綺麗な子…