銀杏ララバイ
「やっぱり…
僕も何だかすごく懐かしい感じがしたよ。
でも背が大きくなっていたから
人違いかなあと思っていた。」
孝史も何となく感じていたらしく、
かおるの言葉に合わせてギナマを見た。
「うん、私も覚えている。
会った時にすぐ分かった。
また来てくれて嬉しかった。
そしてここまで来てくれてすごく嬉しい。
だけどどうして二人なの。
お母さんやお父さんは留守番なの。」
ギナマはあの時
二人は両親と一緒だった事を覚えていた。
「違うよ。お母さんは死んだ。
お父さんはあの後離婚して… 行方が分からない。
だから僕たちは… 」
と、孝史が今の自分たちの境遇を、
涙さえ浮かべて話した。
そして話し終わって、
恥ずかしそうな顔をして涙をぬぐった。
そんな孝史を見て、
やはり弟と言えども男の子だ、
と胸が詰まったようになっていたかおる。
改めて温かい心で孝史を見ている。
「そうか。幸せそうな家族だなあ、と羨ましくなって…
気が付いたら一緒に遊んでいた。
楽しかった。
だけど遠くでおばあさまが見ていたから、
内緒で帰ってしまった。
それ以来、夏になると
君たちが来るかなあ、と毎日見張っていた。
まさかこんな季節に来るとは思わなかった。」
そう言いながらギナマは苦笑した。
「僕たちの来るのを待っていたのか。」
ギナマの言葉に、
孝史が嬉しそうに瞳を輝かせている。
「うん。待っていた。
あの時の楽しさが忘れられなかった。
孝史が私にしがみついて、
一緒に転んだ事、覚えている。」
ギナマは、銀杏の木の前で遊んでいた時に起こった
一つの出来事を口にした。
走り回っていて、
子供同士がぶつかったように転んだ、
と言う他愛もない出来事だったのだが…