銀杏ララバイ

「お姉ちゃん、広い庭だね。
池だけでも大きいのに滝まで出来ていて
川が流れ込んでいる。

どこまでこの川、続いているのかなあ。

あ、向こうに洞穴のようなものがある。
小さな鳥居もあ、あそこにお墓みたいな石がある。

違う、何かなあ。」



孝史はすっかり冒険者になったようだ。

池の周りに組まれた大きな石の上にのぼり、
池に流れ込んでいる川の流れに沿って
奥の方を見渡し、
かおるに知らせている。


昨夜はすっかり辺りが暗くなっていたから、
大きな門構えの家と言う事しか気づかなかった。

こうしてゆっくりと庭を歩いてみると、
その広さは並ではなかった。

その辺の神社の境内ぐらいはある。

そして、外部との切断を意図するかのように、
葉の落ちた銀杏の木が外周に存在感を出している。

よく見れば、
その陰にはしっかりとした塀が要塞のように造られ、
全てのものを守るように囲んでいる。


2人は玄関横から見渡せる
大きな池を出発点として、
池の周りを一回りして、

池に流れ込むように作られた
小川に沿って庭を歩いている。



「あれ、今人影のようなものが… 
そんな事はないわね。
気のせい、気のせい。」



二人が池と洞穴の中間点ぐらいを歩いていた時、

こんな所はゆっくりとした散策気分で
歩くようなところではない、
と消極的な気持ちになっていた、
かおるの目に何かが… 

いや、かおるの目には人影のように見えた、

が、それこそ有り得ない事だと自己分析して、
あいまいににごわした。

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