銀杏ララバイ
それで孝史は、手に持っていたサッカーボールを地面に置き、
2人がかりでギナマと向き合っている光景の男を目指して
シュートを入れた。
そう、孝史のボールは見事に蹴られ、
計画通り、一人の男が握っていた刀に当たった。
2人が現れると男たちは消えてしまった。
と同時に振り返ったギナマ。
その涼しげな瞳は、
生まれたばかりの赤ん坊のように
穢れのないブルーがかった白目が、
赤くにごり、
真ん中の黒目部分が、
猛獣のような茶色っぽい金色に変わり、
鋭い眼差しで2人を見た。
その変貌に一瞬ドキッとしたかおる。
それでも考えてみれば、
あの男たちの正体は分からないが、
一人で対戦していたのだから、
精神状態が普通ではなくなっていても当たり前かも知れない、と
かおるは思った。
「ギナマ… あいつらは誰なのだ。」
孝史は気づいていない事はないはずなのに、
怖じ気ずにギナマに声を掛けた。
しかしギナマは返事をしない。
その様子は、
まさに邪魔をされてすねている子供の、
悪餓鬼のようにも見える。
「僕たちは友達、
いや、5年来の親友みたいなものだろ。
ギナマは僕たちに家を提供してくれた。
会えた事も含めて、すごく嬉しかった。
何かあるのなら僕たちにも話してくれよ。
僕たちは子供だし刀など触った事もない。
喧嘩だってした事もないけど…
だけど何かあるのなら話して欲しいよ。
お姉ちゃんだって同じ気持ちだよ。
僕たちだって自分たちの事を全て話したよ。」
孝史は本気のようだ。
その真剣さ…
それだけギナマの事を身近に感じているのだろう。
かおるはそんな孝史の態度を含め、
全てに戸惑っている。