銀杏ララバイ
母がいなくなり
2人だけになってしまったと言う恐怖や悲しみ…
日増しに強いものになっていた。
そんな中で2人の脳裏に浮かんだのが
この銀杏だった。
そう、5年前、家が出来て、
全てに楽しかった思い出として浮かぶのが
この鶴岡八幡宮の銀杏の木だった。
「僕も覚えているよ。
すごく大きなイチョウの木だった。
こんな姿になってしまったけど、
それでも大きかったと言うのは分かるね。」
孝史は枯死したような色になっているが、
それでも幹だけは保存されている、
思い出の残っている残木に
手をかけてかおるを見ている。
「そうね。800年から1000年ぐらい生きていたらしいから仕方が無いけど…
もう一度母さんにも
この銀杏の木を見せてあげたかった。
母さんは銀杏の葉をしおりにしていたし
銀杏の実が好きだった。
こうして私たちが見ていれば
母さんも見ているわね。」
「うん… お姉ちゃん、僕たちどうなるの。
もう暗くなるよ。
どこに泊まるの。」
いきなり孝史が現実を思い出したように
心細い声を出してきた。
施設を出る時は勇んでいたが、
やはりまだ11歳。
辺りが暗くなるにつれ不安が湧き上がって来たようだ。
「まだ分からないわよ。
だけど孝史だって施設へ戻りたくない、と
言っていたじゃあないの。
私たちはまだ子供扱いだから、
二人でホテルや宿屋へなど泊まれないの。
そんな事をすれば警察に通報されて即施設よ。
だからどこか眠れそうな所を捜すしか無いでしょ。
幸い温かい上着は着ているし、
その中にもセーターが入っているわ。
2人一緒なら、
私は孝史と一緒なら平気だよ。
孝史は私と2人では不安なの。」
そう言ってかおるは微笑みながら孝史を見た。