銀杏ララバイ
確かに書庫は、
迷路のような廊下をかなり歩いた所にあった。
庭に面した廊下は、
ほとんど雨戸が閉められたまま。
ただ薄明かりを頼りに移動していた2人には、
書庫が家の中のどの位置になるのかさえ分からなかった。
ギナマの後をついて、
歩いていただけで書庫に着いていた。
そして書庫の扉には、
蔵にかかっていたような、
大きな南蛮鍵が付けられていた。
だから1人とか、
かおると一緒だけでは心細く感じるのだ。
孝史は素直に喜んで、
何故か少年向けの歴史の本を数冊と、
好きなアニメ本や雑誌を抱えている。
それでかおるも、
夜になればどうせ同じ部屋で眠る二人、
孝史とゆっくり話は出きると考え、
同じように、数冊の本を抱えて書庫を出た。
「これ、忘れていた。
好きでしょ。」
本を部屋に置き、
再びリビングらしきテレビの置かれた座敷に入ると、
ギナマが大切そうにキャラメルを持って来た。
「あ、これって… 」
「そうだよ。あの時お母さんがくれた。
今では私の大好物。
君たちも好きでしょ。」
そう言いながらギナマは
大切そうな手振りでテーブルの上に置き、
どうぞ、と言う様な目つきをして、
キャラメルを口に入れた。
その顔は、
まるで子供のように幸せそうな笑みを浮かべている。
夕方見た、
男たちと戦っていたギナマとは全くの別人の、
可愛くて綺麗な子、
ギナマがそこにいる。