銀杏ララバイ
しかし、その内にギナマは、
ちょっと用事があるから部屋へ行く、
また明日の昼、
と言って姿を消してしまった。
どんな用なのか分からないが、
その態度はどうも不自然のように思われた。
「孝史、私たちも部屋へ行きましょう。
部屋には本も沢山あるから、
早くお風呂に入って… ね。」
ギナマの姿が消えると
かおるは孝史を誘って部屋に戻った。
ここは何となく話辛い気がした。
ギナマが盗み聞きをしているとは思わないが…
誰かに見られているような気がして来たかおるだ。
そして、昨夜のように
交代で廊下に出て風呂を使った。
そのことは孝史も抵抗がないようだ。
今日は持って来た雑誌があるから、
退屈しないで時間をつぶせていた。
昨夜は何となく落ち着かなくて、
風呂場の戸を挟んで
取り留めのないことを話したりしていたものだが…
「ねえ、孝史。私たちここを出ましょうよ。
ここの待遇はとてもいいけど…
何か秘密めいてる気がするわ。
こんな大きなお屋敷に
ギナマが一人、と言う事も不自然よ。」
布団に入ったかおるは、
やっと感じていた事を孝史に伝えている。
「だからギナマは寂しいんだよ。
僕たちがいてすごく喜んでいる。
僕たちも行くところが無いのだから、
ちょうど良いじゃあないか。
僕はギナマのおばあさんが戻って来るまで
ここにいてあげたいよ。
変な奴らがここの宝を狙っている。
それをギナマは一人で守っているんだよ。」
と、孝史はかおるにとっては想定外の、
まるで物語のような話をしている。
「まあ、何を言っているの。
どうしてそんな事が分かるの。
ギナマは話したくない、と言っていたじゃあない。」
かおるは孝史の顔を
まじまじと見てしまった。