銀杏ララバイ

「そうだけど、僕は分かるんだよ。
あのね、昨日僕は夢を見た。
ギナマの夢だよ。」


「それは夕方、あの境内で話していて、
その後、偶然出会ったからだわ。」


「お姉ちゃんはそう感じているかも知れないけど、
僕はギナマに呼ばれたような気がする。

ギナマは僕たちを待っていたのだよ。
僕たちが来るのを分かっていたんだよ。

だからこんな本やサッカーボール、
キャラメルまで用意していたんだよ。

ギナマはあの時から少しも成長していない。」



どうやら孝史も、
自分なりにギナマとの関係を考えていたようだ。

しかしそれは、
かおるの考えとはかなり異なったもののようだ。



「何言っているのよ。
あんなに背が伸びて、

さっきは信じられないほど強かったではないの。」


「そうだけど… それは見掛けだけだよ。
背は伸びているけどすごく軽い、
心は子供のままだよ。

それに… 夢の中で泣いていた。
どうしてかは分からないけど、
とても悲しそうだった。

とても綺麗な刀を抱えて泣いていたんだよ。

きっとあの刀を守っているのだよ。

言わなくても分かる。
だから僕は
何が出来るかはわからないけど、
ギナマの側にいてやりたい。

どうせ僕たちは
いつかは施設に入らなくてはいけないのでしょ。

それなら今の内にできる事をしたい。

何もしなくて、
このままギナマと別れたくないよ。」



かおるにとって孝史の言葉は… 
再会したその夜に夢まで見たとは、

何かの因縁のように感じられた。


第一、こんなに熱っぽく話す
孝史を見たのも初めてのことだった。

かおるも、
あの石段からここまで来る間に、
ギナマの軽さには気づいていた。

病的だと思ったほどだった。

確かにギナマには秘密がありそうだ。

だからこそ、
ここにいてはいけないような気がするが… 

孝史の言うとおり、
施設に戻れば自由が少なくなるだろう。

だからこうして旅をしようと考えたのだ。

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