銀杏ララバイ
自分たちのただ一つの幸せな思い出の場所で、
こうしてギナマと再会した。
やはり孝史の言うとおり、
もう少しギナマの側にいるべきだろうか。
どうせ行く所は無い。
「分かったわ。孝史の気持ちに従う。
だけど危ない事は無しよ。
私たちは子供で
ギナマのような剣道は出来ない。
第一、孝史もさっき言ったけど、
喧嘩だってしたことも無いのだから。
これだけは約束だよ。」
「うん。僕たちはたった二人だけの姉弟だからね。」
しかし,かおるはその夜、寝つきが悪かった。
夕食以後、やたらと喉が渇き、
いつもより水分を沢山取ってしまった。
そのせいかトイレへ行き、
そして、トイレと風呂場へ行く廊下の隅に置かれている、
小さい冷蔵庫からまた水のボトルを出し、
部屋で飲もうと思っていた。
その時だった。
誰もいなくても、廊下には小さい明かりが点っている。
慣れればどうって事は無かったのだが、
その時かおるの耳に、
庭を大男が歩いているような、
重々しい足音が聞こえた。
誰もいないはずなのに…
ほとんどの廊下は一日中雨戸がしまっている。
ただ、二人が寝泊りしている一角だけは開け閉めしているが、
今は眠る時に閉め、
おまけに分厚いカーテンまでかかっている。
足音は聞こえるが、
そーと覗くわけにも行かない。
かおるは急いで部屋に戻り、
熟睡している孝史を起こした。
「孝史、起きてよ、孝史。」
「どうしたの、お姉ちゃん。」
激しく揺り起こされて、
孝史は眠気眼でかおるを見たが、
どう見ても半分眠っている顔だ、
と感じたかおるは諦めた。
第一、既に庭を歩く足音も聞こえない。