銀杏ララバイ
あの時、ほんの数十分ほどだったが、
いきなり現われて一緒に遊んだ少年…
一度も陽にあたった事のないような白い肌をして
痩せていたが、
その顔は石膏で出来た人形のように整い、
その涼しげな瞳は
生まれたての赤ん坊のように澄み、
特に白目部分が異様に青く、
子供心にも印象深かった。
だから二人は、綺麗な子、と言う言葉で表現している。
「あの子ね、本当は銀杏の精だったんだよ。」
孝史が声を潜めてかおるを見ている。
とにかくその少年は
突如として現われ、
ちょっと目を離した隙に、
さよなら、も言わずに姿を消してしまった。
銀杏の木の周りで遊んでいたら
現われた綺麗な少年…
その現われ方も消え方も
天使か精霊のように神秘的だった。
「違うわよ。それはお母さんが後で言った話でしょ。
お母さんもあの子が気になって、
後で社務所の人に尋ねたのだって。
そしたら誰も知らない、見た事もない、って言ったから、
お母さんがあの銀杏の精霊だ、って
私たちに話したのよ。
孝史が信じたから、お母さん、ニンマリしていたわ。
でも、あの時は本当に楽しかったね。
あの頃に戻りたいね。」
それはかおるの本心だった。
かおるこそこれからの事が不安でたまらなかった。
年上の自分がしっかりしなければ、
と思うもののまだ16歳になったところ、
新学期が始まってやっと高校2年生になるはずだった。
今までは母がいたからこそ手伝いもしたし何でも出来た。
しかしその母ももういない。
毎晩こんな所で眠る事も出来ないだろう。
どうしたら良いのか皆目分からない。