銀杏ララバイ

すぐに孝史が叫ぶように声を出した。



「そんな… どうして父親が子供を殺そうとするのだ。

そんな事は有り得ない。
ギナマは特別に可愛い子だぞ。

それに、何故お父さんは自殺などしたんだ。」


「わからない。
だけどこの刀は父の血を吸っている。
父がこの中に居るように感じる。

たまらなく寂しくなるとこの刀と話をする。

そうすると父が見ていてくれるような気になるが… 

その後それよりももっと大きな孤独感に襲われる。

いつも寂しかった。
本当の事を言うと初めてだった。

あんなに家の者以外の人間に近づいたも初めてだった。

あの時、初めて声を上げて笑った。

孝史と一緒に転んだ時、
初めて子供の体を感じた。
柔らかくて気持ちが良かった。

何もかも初めてで… 
心から楽しいと感じた。」



そう言うとギナマは、
また照れ笑いのような
弱い笑みを浮かべて2人を見た。

2人の目には、
やはりギナマが泣いているように見える。

あの涼しげな白目部分がよりブルーがかっている。

涙は見えないが、
涙の膜が出来て、よりブルーになったようだ。



「今でも僕たちは友達だからいいじゃあないか。
ギナマに特別な事情があってもそんな事は関係ない。

一緒にいられなくなっても、
ギナマは僕の分身だから心は繋がっている。

それが絆って言うんだよ。
忘れないでよ。」



ギナマがどれほどの孤独の中で生きていたのか、

話を聞いている孝史は、
ギナマを不憫に思い、
一生懸命慰めようとしている。

母が亡くなったところと言うのに、
周囲の同情のかけらもない冷たい言葉、

からかうような不謹慎な言葉をいきなり浴びせられ、
たちまちに心が壊れ、
凍結してしまった経験を持つ孝史。

父親の思い出がその刀だけ、と言うギナマ。


孝史はギナマを励ましてやりたかった。

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